崖の上のポニョ

※ネタバレがあるので未見の人はご注意を。
とにかく動きまくる濃密な映像が圧倒的。人物たちが豊かなアクションを見せるのはもちろんのこと、序盤で画面を埋め尽くす何十というクラゲがそれぞれ別個に漂っていく場面や、中盤の嵐で海がうねり大波が主人公を追いかける場面がものすごいことになっていましたよ。シンプルな線で描かれた絵を動かしまくることで映像全体に生命力がみなぎっていて、正直みなぎりすぎていて疲れるくらいでした。
物語は、監督自身が言っているように人魚姫のリメイクといったところで、人間の男の子を好きになった魚の女の子が人間になるということで、絵柄と同じようにシンプルな筋書き。その一方で映像から受ける印象は、生命の誕生や胎内回帰願望が色濃く、父親に連れ戻され泡に閉じ込められたポニョが無数の妹たちに囲まれて復活する場面が受精の瞬間を思わせるものだったり、島が徐々に海に飲み込まれていく様子が母なる海に帰っていくようだったり、トンネルを抜けるところでポニョが人間から魚にもどってしまったりと母性的なイメージに溢れていましたよ。特に海に沈んだ介護ホームが、巨大なクラゲに包まれていて、その中では水中にも関わらず呼吸ができたり、車椅子の老人たちが歩けるようになったりするあたりは、胎内回帰そのまんまだったなと。
最終的には、ポニョが人間となって世界の異変も収まり、形としてはハッピーエンドを迎えるわけですが、近年の宮崎駿作品の傾向としてある、終盤詰め込みすぎてなんだかよく分からないうちに終わるというパターンが今回も発揮されているせいで、どうにもスッキリしないものが残るというか。ポニョが母なる海からひとり立ちすることで、母性による侵食から逃れることができたということなんだろうけれども、人間になったから大丈夫では見ている側としては納得できないものがありましたよ。
例によって投げっぱなしな印象もありましたが、映像表現については圧倒されるばかりでシンプルな筋の物語に映像によって深層心理をさらけ出すようなイメージを付与するあたりは、やっぱり凄いなぁと思いました。