メッセージやクリエイターについて語るよりも、アニメにはもっと大切なものがあるんじゃないかという話

日経ビジネスオンラインで掲載中の、コードギアスの監督・谷口悟朗へのインタビューの第4回『「お前は分かっていない」に負けるな』について。従来のアニメを取り巻く言説に対する挑発的な発言がてんこ盛りで大変面白い内容でしたよ。

谷口: 作り手がやりたいことを好きにやって、お客さんをおいてきぼりにしてしまうというのは、アニメ制作者が陥りがちな罠なんですよ。私は、今のアニメーション業界の一部には、「お客さんよりも作り手のほうが上だ」という思想があると思っています。クリエイター至上主義といいますか。

と、いきなりクリエイター至上主義を罠として切って捨てたり、

 ただ、「オールド・アニメファン」とでも言えばいいでしょうか。いわゆる“玄人筋”の人たちは、アニメにメッセージ性があるかどうか、新しい何かがあるかどうか、というところに評価基準を置いてしまった。これは、下手をすると排斥につながる。

メッセージ性の強い作品をありがたがるマニアたちを排他的として否定したりと。
一応アニメの歴史を振り返って、そうならざる得なかった理由に理解を示してはいますが、権威として祭り上げられる立場の人間から、ここまでハッキリとそれを否定する発言が出るのは今までなかったんじゃないでしょうか。
そして、

 日本人の癖でもあると思うんですけど、ジャンルが成熟してくると、いろいろ分析し始めて、お前は分かっていないとか、権威的なことをどうしても人は言い始めるわけですね。アカデミー化しちゃうんです。でも、これはダメあれもダメと言い立てることで何が生み出せるの? と思うんですよ。一番大事なのは、生まれてくるものが、楽しめるかどうかだと思うんです。

と自身の考えを明らかにするわけですが、立派であることや革新性よりもまず面白いことが重要とする彼の主張は、自分がアニメに対して望んでいること同じで、作る側の人間からそういう言葉が聞けるのはうれしいものがありました。毎日書いてるアニメの感想も、まず話として面白いのかどうかを基準としているつもりなんですが、それが上手く言ってるかどうかはまあ別問題。あと、90年代の終わり頃に登場した18禁ゲームやギャルゲーを原作としたアニメを、新しい流れを作り出したものとして評価しているのは新しい視点。
連載の第一回である『「やればできる俺」という欲望』が、けっこう話題になりつつも、どちらかというとインタビュアーの考えを谷口悟朗という人物の言葉を借りて語るみたいな内容だったので、個人的にはあまり興味が持てなかったんですが、今回は彼がどのような姿勢で創作にのぞんでいるのかが分かるものとなっていて大変興味深かったです。
挑発的な言動は、アニメがマニアだけのものとなることを憂い、より多くの人に見てもらいたいという考えが根底にあってこそのものといったところで、現在手がけているコードギアスも、学園やロボットに人を従わせる絶対的な力、そしてインパクトのある展開の連続と、とにかく受ける要素をこれでもかと詰めこんだものとなっていて、高尚さよりも面白さをという考えを実践しているように思いました。終盤を迎えて無理のある展開や雑なところも見られるようになって来ましたが、面白さを追求し続けてどこまで行けるのか見届けたいところ。