とらドラ! 総評「思春期の恋と成長の物語」

記事のタイトルがかなり恥ずかしいけれども、その恥ずかしい物語を堂々と描いてくれたこのアニメに敬意を表して。
 
・物語について
話としては、憧れの異性に恋に恋する状態の人物たちが自分にとって本当に必要な相手を見つけるという少女漫画的なお約束を踏まえたものとなっているわけですが、単に相手を見つけてめでたしめでたしではなく、そこから更に、本当に必要だからこそ一緒にいるためにやるべき事があるという所まで踏み込んで描いてくれるのは充実感のある終わり方となっていましたよ。恋愛モノとしてだけではなく成長物語としても丁寧な作りとなっておりました。
登場人物たちが不器用にぶつかり合いながら成長していく姿は恥ずかしくも共感を覚えるところ。特に常に不機嫌そうで、気に入らないことがあれば即キレて手が出るような女の子だった大河が、物語が進むにつれて丸くなっていく様子が印象深く、また最終回でのキスシーンは身もだえするほどに可愛らしく。竜児という存在を得たことで、自分自身を受け入れるために家族の元へ戻るのも良い選択でした。
タイトルを考えれば竜児と大河の物語になることに意外性はないけれども、二人が結ばれるまでの間、近づいたと思ったらまた憧れの人の方へと気が向いたり、いつの間にやら多角関係になっていたりと、メインの5人の人間関係がめまぐるしく変化するあたりは、予測の出来ない面白さがありましたよ。
終盤の展開が早すぎるとかはしょり過ぎとかいう意見もあるようで、その原因としては、主に竜児の心情が追いにくいところにあるのかなと。
最終的に大河を選ぶことについては、一話で眠る大河に見とれるところや、哀れ乳のエピソードで彼女の水着姿を見てバツが悪そうに目を背けるところ、そして修学旅行の後に再会して泣くところにと、本人が自覚してないだけで、意識していることを伺わせる描写がいくつもあって随所で前振りはされていた模様。駆け落ちするはずが母親の実家へ行って仲直りする動機もちょっと分かりづらかったけれども、母親が逃げたことで彼女もまた傷ついていることに気づいて、竜児の方から歩み寄るいったところでしょうか。
 
・作画と演出について
作画については多少のバラつきはあったものの、全体としては高いレベルで安定。喜怒哀楽の表情が非常に豊かで、時としてアニメの世界の女の子としてそれはどうかと思うような顔もあったりして驚かされました。その方向では修学旅行の旅館で、亜美が実乃梨に対してガンを飛ばすカットが忘れがたく。
女の子同士なのにガチで殴り合いをするのも凄いところで、大河vs前生徒会長戦と実乃梨vs亜美戦はアクション的にも見応えのある場面。影が少なく、ややラフな感じを受けるタッチで普段の絵柄とは違うものの、それが登場人物の感情が爆発するテンションの高さと上手く噛み合っていたように思いました。
もちろん普通に可愛らしく見せる作画も素晴らしく、キスシーンを頂点として終盤の大河の表情や仕草にはたまらないものが。また言葉として出てこない心の動きを細かい仕草によって描いてみせるのは、演出意図を実際の絵として表わす優れた作画あってこそのもので、最終話で竜児が、大河の手帳の中に写真を見つける場面の表情の変化が記憶に残るところ。
風景や小道具を使って人物の心情や関係性を表わす演出も印象的。2話でのもつれ合うように落ちる2枚の花びらや空を突き抜けるように走る二本の飛行機雲(最終話にも竜児の回想として出てました)、10話の上がる打ち上げ花火と落ちる線香花火の対比、20話における大河のカバンの扱いを通して描かれる実乃梨を含めた三角関係、最終話の星によって繋がる一連の場面と、例を挙げたらキリがないくらい。
一度見ただけでは見落としているところもあるだろうし、作り手が込めたものを読み取るために、またはじめから見直してみたいと思わせるだけの密度がありましたよ。
 
・まとめ
ヒロインが木刀を持って殴り込んでくるようなありえない度の高い導入から、よくぞ等身大の人物の恋と成長の物語として完結させたと感心することしきり。行動や出来事が派手に誇張されてはいるものの、それによって描かれる人物の内面は共感できるものとして描かれ、また上に挙げたような丁寧な演出によって、それが支えられていたように思いました。時々炸裂する臭いセリフも聞いてて悶絶するくらい恥ずかしいんだけれども、そういった誇張しつつ内面を描くものとして機能しているのかなと。
登場人物たちの年齢から離れた立場から見ると、思春期ならではの痛々しさが恥ずかしくも郷愁を誘うものとなっていて甘酸っぱいモノが。彼らが不器用にぶつかり合いながら成長していく様子に、それぞれの人物への、ひいては彼らと同年代の人々への作り手の愛情が感じられるモノとなっておりました。